鉄のフライパンには、使い始めの「シーズニング」や普段の「メンテナンス」がちょっと面倒というイメージがあると思います。
しかし、その面倒臭さが気にならないくらいの魅力もあります。
まずは見た目…。
これはモノにもよりますが、昔からずっと変わらないプロユースなデザインのモノが多く、鉄の素材感が醸し出す無骨な雰囲気には 独特の趣きやカッコよさが感じられます。
さらには、日々使用してゆくことによって鉄ならでは風合いが増してゆき、その使用感が味わいとなってだんだんと愛着も湧いてきます。
そして機能性…。
鉄は、アルミと比べると熱の伝導性が悪くて熱くなるのが遅いため、余熱には比較的時間がかかりますが、板の厚さが同じである場合は、アルミよりも蓄熱性が高いので、一旦温まってしまうと熱をため込んでくれます。そのため、火力が多少弱目でも安定した調理が可能です。
さらに、アルミよりも「熱の伝導性が悪いおかげ」でフライパン全体が比較的均一に加熱されます。
そのメリットとしては、「熱の伝導性が良すぎる」アルミのフライパンように、火の当たっている部分の温度が急に上がり過ぎてしまって、その一部分だけが焦げ易くなってしまうということが少ない。
■鉄のフライパンで作ると、料理によっては実際に美味しくもなるという。
また、蓄熱性が高いため、板が厚めの鉄フライパンを使用した場合は、材料を一度に多く入れたときの急激な温度の低下を抑えてくれます。
そのため、野菜などをシナッとさせることなく一気に炒めることが出来ます。
そのほかに、メイラード反応という『料理や食材に香ばしい香り成分や美味しそうな焼き色を生成させる現象』を比較的起こしやすいらしい。
このように鉄のフライパンで調理すると、実際に料理が美味しくもなるということです。
次に、鉄のフライパンには、食材がこびり付き易いというイメージがあるかもしれませんが、実は意外とこびり付き難いものなのです。
例えば、ステーキハウスのカウンターや、お好み焼き屋のテーブルなどに設けられている焼くためのスペースは「鉄板」ですが、あまり食材がこびり付くというイメージはないですよね。
なぜなら、食材がこびり付くという現象は、冷たい食材をのせた時の急な温度低下によって起こりやすくなるらしいのです。
ステーキハウスやお好み焼き屋の「鉄板」は厚めなので急な温度低下が少ないため、食材がこびり付くという現象が起こり難いのです。
ということは、鉄のフライパンの場合でも底板が厚めのものを使用すると、蓄熱性が高くて急な温度低下が少ないため、食材がこびり付き難いということになります。
ちなみに、中華鍋にはそれほど厚みは無いのですが、中華屋さんのコンロの炎はハンパなく強いので、鍋の温度が低下する暇が無いということです。
ともあれ、使い過ぎてフッ素加工などがハゲハゲのアルミフライパンよりもこびり付き難いはずです。
■では、鉄のフライパンを使うための準備をします。
鉄のフライパンを使う前に「空焼き」や「油ならし」が絶対に必要な場合もありますが、メーカーや種類によっては「ただ洗うだけ」ですぐに使えるモノもあります。
鉄だからといって全てのフライパンが使い始める前に「空焼き」や「油ならし」などのシーズニングを必要とするということではありません。
とにかく、フライパンの初期仕様によって「最初からなにもしなくていい場合」もありますので、購入時に添付されている説明書をよく読むことが大事です。
さらに詳しくは、
●メーカーから出荷されるときの初期仕様である表面処理(サビ防止コーティング)の方法には、
「ラッカーなどの塗装」「蜜蝋を塗布」「天然植物オイルを塗布」「シリコン樹脂焼付塗装」などがあります。
まず「ラッカーなどの塗装」「蜜蝋を塗布」「天然植物オイルを塗布」のものは、ただ単にサビ防止のためだけのコーティングなので、表面のそれらを除去する必要があります。
中でも「ラッカーなどの塗装」でサビ止めコーティングされているものは、その塗装を焼き切って除去するために「空焼き」は絶対に必要です。
ただ、同じ塗装でも「シリコン樹脂の焼付塗装」はメンテナンスを不要にするための表面加工なので「空焼き」をして焼き切る必要はありません。
同じクリア塗装でも、「ラッカーなどの塗装」と「シリコン樹脂焼付塗装」では塗装の目的がぜんぜん違います。
また「蜜蝋を塗布」してある場合は熱湯などで洗い流したり、「天然植物オイルを塗布」してある場合は洗剤で水洗いだけでOKの場合があります。
とにかく説明書は必読です。
●次に、鉄のフライパンには、表面の色が
・最初から「黒いもの」と、
・最初は「鉄の地金色(銀色)のもの」とがあります。
最初から表面の色が黒いものは、酸化皮膜(黒錆、四酸化三鉄、四三酸化鉄、黒皮などともいう)を付ける加工が最初からなされている場合が多いです。
ですので、購入した後に「酸化皮膜形成のための強めの空焼き」の作業をあえてする必要のないものが多いです。
以上のことを鑑みると、
フライパンメーカーからの出荷時の初期仕様によって、使用するまでのシーズニング方法は以下の3パターンに分けけることが出来ます。
②. サビ防止の除去 → 油ならし
③. サビ防止の除去 → 酸化皮膜形成 → 油ならし
というような感じです。
最初から表面の色が「黒いもの」は、表面のサビ防止コーティングを除去したあとは「油ならし」をするだけでOKです。
そのコーティングの除去方法にしても「空焼き」ではなく「熱湯洗い」や「洗剤で水洗い」などで行う場合もあります。
とにかく、説明書をよく確認してから始めることです。しなくても良い無駄な処理をしてしまうことは避けたいですからね。
■鉄のフライパンを「空焼き」して、表面に「油の膜」を作る。
上記のとおり「空焼き」をする目的は2つあって、
1つ目は、サビ防止のコーティングを「焼き切るためだけの空焼き」
2つ目は、鉄の色が変わるくらいの「酸化皮膜(黒錆)形成のための強めの空焼き」となります。
もし、買ったばかりのフライパンが銀色(鉄の地金色)であって、出荷時の表面コーティングが「シリコン樹脂焼付塗装」ではない場合、それを味のある黒いフライパンに早く育てたいならば、後者の「酸化皮膜(黒錆)形成のための強めの空焼き」をしても無駄ではありません。
ただ「空焼き」をして黒錆を付けるというのは、赤錆が多少発生しにくくなるだけのことで錆びないわけではありません。なので無理に「空焼き」をしなくても、片付ける時に薄くオイルを塗って管理をしておけば、買ったままの銀色(鉄の地金色)の状態でも大丈夫ではあります。それでも使用していくうちに「油の膜」がだんだんと育っていくはずです。
つまり、このあと下記で行うような、鉄の色が変わるほどの「酸化皮膜(黒錆)形成のための強めの空焼き」は絶対にしなければいけないという作業ではありません。
ちなみに、今回下記で扱うフライパンの使用方法を説明する公式サイト動画では、ほとんど「空焼き」はしておらず、肉を焼くときは銀色(鉄の地金色)のままの鍋底に「油ならし」をしてその上で焼いているだけです。
そして片付ける時には、その油ならしと調理によって発生した焦げ茶色の「油の膜」は落とさずに、水洗いだけをして、その水分をふき取り、最後に薄くオイルを塗って終了となっています。つまり使用していくことによって、いずれ全体が黒(焦げ茶色)っぽく育っていくので大げさなことはしないということです。
でも今回は、フライパンの表面に多少なりとも油が馴染みやすくなるようにしたい。そして、早く味のある黒いフライパンにしたい。ということで「酸化皮膜形成のための強めの空焼き」をします。そしてそのあと、表面に「油の膜」を作ります。
作業自体は多少面倒ですがそれほど難しいこともでありません。
人によってやり方も様々ですが、メンテナンスしながら何年も使用し続けていると最終的には同じような具合に育ってゆくとおもいますし。気に食わなければゼロからやり直しも出来ます。
ということで、深く考えずにやってみます。
なお空焼き中は軍手をしています。とにかく作業は安全第一で火傷をしないように十分な注意が必要。
そして今回は、購入時点での表面の色が「鉄の地肌色(銀色)」で、表面のサビ止めコーティングが洗剤で落とせるフライパンで行ないました。
1.まず、表面を洗います。
サビ防止のコーティングが「植物オイル」の場合は洗剤を使って洗い落とします。「蜜蝋」の場合は熱湯で溶かして洗い落とします。
洗剤を使用した場合は、表面に洗剤が残らないように水やお湯できれいに洗い流しておきます。
そして、洗ったあとは、布巾やキッチンペーパーなどで表面の水分をふき取っておきます。
2.次に、強火にかけて空焼きを始めます。
●サビ防止のコーティングが上記工程1で取り除かれている場合は「酸化皮膜形成のため」だけに。
●サビ防止のコーティングが「ラッカー塗装」などの場合は、その塗装を「焼き切るため」と「酸化皮膜形成のため」に空焼きをします。
また「シリコン焼付け塗装の場合」は、この空焼きの工程は必要ありません。
とにかく説明書はよく確認しましょう。
●しばらくすると、底の部分から玉虫色に変わってきます。
空焼き中は、取っ手(ハンドル)がかなり熱くなりますので冷めるまで触らないでおくか、または、軍手と鍋つかみ(ミトン)などを用いて取っ手を持つかします。
●鍋部分が全体的に青くなったら火を止めて空焼き終了です。
これで、鍋部分(丸い部分)全体に、薄い酸化皮膜(黒錆))が形成されました。
空焼きする時間は、フライパンの大きさや使用するコンロの火力にもよりますが、普通のコンロなら大体数分~十数分ほどで終了するとおもいます。
今回は22cmの大きさで厚さが2.5mmのフライパンを空焼きして、11分間で火を止めました。
この酸化皮膜(黒錆)が形成されることによって表面には極微小の凸凹が形成され、その凸凹に油が馴染み易くなります。
最初から酸化皮膜が付いている(最初から黒い)のに、色が変わるまで焼かないといけないと思って焼いてしまった。
もしくは、焼かないでもよいシリコン塗装を焼き切ってしまおうとした。
…のかもしれません。
3.冷めたら、一度洗います。
空焼きした後は空冷させて、冷めたら一度水洗いをします。このときは洗剤を使用してもOKです。
ここでは、空焼きしたときに出来る、サビ防止コーティングの目に見えない燃えカスや、黒錆と同時に発生する目に見えない赤錆を洗い落とします。
※目に見えない赤錆といっても、白いキッチンペーパーなどでフライパンの表面を拭いたらそのペーパーが錆で赤くなるので、けっきょく目で見ることはできますが…。
なお、水洗いするのは必ず冷めてからです。
熱いまま水をかけると変形する恐れがあります。また、火傷の防止にもなりますし。
4.表面の水気を良く拭いて、乾いたら直ぐに油を塗ります。
洗浄して不純物を取り除いたあと、布巾やキッチンペーパーなどで直ぐに表面の水気を拭き取ります。
そして、完全に乾いたら直ぐに油を塗って馴染ませます。
油は、普段使用している食用油で結構です。ただし、酸化しにくいオリーブオイルはあまり向かないと言われています。
※理想は、酸化重合によって硬化する性質を持つ乾性油(亜麻仁油・エゴマ油・クルミ油…など)です。
ただ、乾性油は比較的高価です…。
5.火にかけながら油を塗ります。
菜箸やトングなどを用いてキッチンペーパーや天然繊維の布きれをつかみ、それで油を塗ります。
このとき、フライパンと油は高温になっているので火傷しないように注意。
そして「火にかけながら、油を塗りながら」をしていると、青っぽい表面がだんだんと黒(焦げ茶色)っぽくなってきます。なお、作業途中は煙が出ます。
この作業をするのは主にオモテ(内側)面です。
作業中に炎をあてるのは常にウラ(外側)面で、フライパンのオモテ面には炎をあてないこと。
なおウラ面は、オモテ面の作業が終了したあとに火を消して、まだ熱いうちに油を薄~く一塗りすれば十分です。
また、あまりにも長く空焼きし過ぎると油が「スス(煤)」なってしまうこともあります。
「スス」の付いたフライパンで目玉焼きを焼くと、目玉焼きの裏がススだらけということになるかもしれませんので、油を塗ってからの長時間過ぎる空焼きには要注意です。
さらにこのあと、フライパン表面の油の膜をしっかりと重合(固化)させるといって、油を塗っては焼き、塗っては焼きを繰り返すという方法もありますが、このあと日々使用してゆくことによって重合した油の膜が育っていくかと思い、今回は上記の一度しかやりませんでした。
また「最後にくず野菜を炒める」という方法もありますが、これは、油の劣化を促進させて油膜の重合を促すためや、鉄の臭いを消すためとも言われています。ただ、この先しょっちゅう「同じ様なこと(炒め調理)」をするはずなので、今回はあえてしませんでした。
なお、せっかく黒錆をつけても、酸性の料理を接触させることによって、黒錆が化学変化で落ちてしまい鉄の地肌が出てしまう場合もあります…。
ハイカロリーのバーナーで真っ赤になるほど焼くと厚い皮膜になりますが、コンロで焼く程度ですと酸化被膜も薄いためしかたがありません。
まあ、長く使っていれば厚い皮膜でも落ちてしまうこともありますし、その剥げた模様も味ではありますが…。
上記のように「空焼き」や「油ならし」などのシーズニングをやってみて、もし結果が気に食わなければ、サンドペーパーやワイヤーブラシなどで表面を擦り落として鉄の地肌をむき出しにし、ゼロからやり直しも出来ます。
また、何年も使い続けて、フライパン表面の焦げ付きが分厚く塊になってしまった。
もしくは、使わないで放置しておいたら赤錆だらけになってしまった。という場合でも大丈夫。
「焦げ付きや赤錆」をきれいに削り落として鉄の地肌をむき出しにすれば、同じようにシーズニングをやり直すことが出来ます。
なお「分厚い焦げ付きの塊」を落としやすくしたい場合は、ガストーチ(バーナー)などを使って焦げ付いた塊の油分を焼き切ると、塊がカスカスになってワイヤーブラシで落としやすくなります。
この「再生出来る」ということも、鉄のフライパンのメリットです…。まあ面倒ではありますが…。
とにかく、大事に使えば一生ものです。
なお、空焼きの作業中は絶対にその場から離れないように。そして、作業が終わったら完全に火が消えるまで、さらにはフライパンが冷めるのを確認するまでは絶対にその場を離れないように。
また今回は、比較的小さめのフライパン(径22cm)を「カセットコンロ」を使用して空焼きしましたが、フライパンのサイズ(径)が大きくなると焼く時間も長くなるし、焼いている最中の高温になったフライパンの鍋底部分が、コンロに設置されているガス缶に接近してしまって危険なので、これ以上サイズが大きなフライパンの場合はカセットコンロでの空焼きはしないように。
また、いくらフライパンのサイズが小さくても、カセットコンロの形や構造によってはガス缶と鍋底部分が接近してしまう恐れもあるので、それが危険だと思ったら絶対に作業はしないことも大事。
◇
以上、記事の中では鉄のフライパンについて色々と良い点を書きましたが、もちろんアルミのフライパンにも良い点はいっぱいです。
まず、アルミは鉄よりも軽いので取り回しが比較的に楽。そしてフッ素加工やセラミック加工などを施した表面加工のおかげで、こびり付きにくく調理やお手入れが楽というメリットも。
また、蓄熱性を高めるために底部分を厚くするとかステンレスとの層にするとかされているタイプもありますし、デザイン的にも優れたモノもたくさんあります。
実際 自分自身も料理ごとに鉄のフライパンと表面加工されたアルミのフライパンの両方を使い分けています。
特に30cmオーバーの大きいサイズのフライパンはなるべく軽いものをということで、フッ素加工がされたアルミ製のモノを使用。
しかし、表面加工されたアルミのフライパンの場合、いずれその加工が剥がれてしまうというデメリットが…。
何年か使っていると「あれっ!最近なんか加工が効いてなくない?」と気づき始め、
それでも食材をこびり付かせながらなんとなく使ってしまっていて、でもどうしても我慢できなくなってようやく買い替えることになるという場合もあります。
でもよく考えると、その間、表面加工のこびり付かない機能は、おそらく鉄のフライパン以下かもしれません。