ずっと使い続けている私物の針山(ピンクッション)は“饅頭のような形”をしたよくあるタイプ。
この針山の場合、高さがあって上からでも真横からでもぐるっと180度近く(横から見た場合)どこからでも刺せる形状なので便利ではある。

ピンクッションの断面イラスト

個人的には主に“マチ針”を刺しておくためと決めているが、つい“縫い針”を刺してしまうこともある。
それは別にいいのですが、困るのは“短い縫い針”を刺した場合に時々起こることで、針の先から頭まですっぽりと針山の中に入り込んでしまい、その針が行方不明になるということ…。
“長い縫い針”に関しては、上から縦に刺した場合はギリギリ頭が出ているので大丈夫ではあるけど、真横から刺した場合はやはり中に入り込んでしまうということもある。
これだと縫い針が中に入りっぱなしということになるのでちょっと危ない。
ということで、自分なりに使い易い針山を手作りしようかと…。

今回は“マチ針専用”と“縫い針専用”の2つを作る。


■まず、針山の最適な中身は何?。

手芸店などでちょっと探せばピンクッション用のわたはすぐに見つかると思う。その材質にはウールもあれば化繊もあって、油分やシリコンなどの防錆剤が含まれていて鉄の針が錆びにくいようになっている。
とにかく何も考えずにただそれを購入して使ってもいいのかもしれないが、とりあえず色々なパターンを下記にまとめてみた。

ウールのわたの塊

●コットン(綿)のわた

まず、わたと言えばコットン(綿)を思い浮かべるがコットンはあまり向かないと言われている。絶対にダメということではないが、吸湿性(綿の公定水分率は8.5%)が高いため鉄の針は比較的錆びやすい…。
椿油などをほんの少し含ませてやったら錆びにくくなるような気もするがどうなんだろう?…。
実は精錬されていないコットンにも多少の油分は含まれている。ただし半乾性油のはず。綿の実を絞った油(綿実油)がそうなので…。
なお、椿油は不乾性油(硬化しない油)です。

●ウールのわた

ピンクッション用として“ウールのわた”が市販されているが、それだと間違いないはず…。
ちなみにですが、ウールは吸湿性が高く公定水分率が15%もある。なんとコットンよりも多いぞ…。
これで針山に適しているのだろうか?…。
まあ油脂分が含まれているのでプラスマイナスを差し引くとプラスになるのかな…。
しかし、羊から刈りたてホヤホヤの毛の場合は油脂分がたっぷりで針山に最適だとは思うが、メーカーによっては染色までの過程で油脂分が少なくなっていることも考えられる…。
手元に何かしらの“ウールのわた”を持っていてそれを針山に使おうとしている場合、もし心配だったら自分で油分を含ませてやると間違いないと思う。

●ウールの毛糸

材料が同じなのでウールのわたと同じ。
もし処分するつもりのウール100%のセーターなどがあればそれを使用するとほぼタダ。
但し何度もクリーニングされているウールの場合は、間違いなく油脂分はカスカスになっているはずなので、油でもシリコンオイルでもいいから含ませてやったほうが良いような気はする。

●ポリエステルのわた

吸湿性はほぼ無いに等しい(公定水分率は0.4%)。
弾力性が高くてクッションやぬいぐるみなどの中身によく使用されている。
例えば“シリコンわた”というものが市販されているが。これは針が錆びにくいようにポリエステルのわたにシリコンを含ませてあるもので針山用である。

●ポリエステルの毛糸

ポリエステルのわたが針山用として市販されているのだから、それと同じようにシリコンオイルを馴染ませてやればいけるような気もする。

●化繊のわた・毛糸

化繊のわたや毛糸には色々な種類のものが存在するが、それぞれ素材の性質は当然違う。
例えば上記の“ポリエステル”も化繊ではあるが吸湿性はほぼ無くて針山に向いている。
“レーヨン”の公定水分率は11%で吸湿性はコットンよりも高い。これはどうなんだろう?
ちなみに“アクリル”の公定水分率は2%。“ナイロン”の公定水分率は4.5%。
このように吸湿性に関しては化繊の種類によって若干異なる。
なお、レーヨンは天然ベースの素材だから分からないが、上記のそのほかには油分は含まれていない。

●髪の毛

自分が今使っている針山は市販のものですが、表面の生地を突き抜けて時々髪の毛のような太い黒いものがポツンと出てくる…。人の毛なのか動物の毛なのか化繊なのかわからないが、もし人の毛だったとしたらちょっと不気味…。最近ではほぼ使用されてはいないらしいが人毛の高級かつらもあるくらいなので…。
とにかくこの髪の毛も適しているらしい。使う時は油分を含ませて…。
でもどうやって手に入れるのか?… 自分の髪だったら不気味ではないけど沢山つくると髪型が…。

●コーヒーの粉

油分を含んでいるのでコーヒーの豆を挽いた粉でも良いらしい。

上記以外には“米ぬか”や“ゴマ”なども…。その他にも色々あるとは思うがとりあえずはこのへんで…。
ちなみに上記における錆びにくいという素材たちは、錆びにくいというだけで絶対に錆びないということではない。
なお、上記で言うところの自分で含ませてやる油とは椿油などの植物油のこと。ただし必ず不乾性油を使用する。乾性油だといずれ硬化してしまうし発火の恐れもあるので…。


■まずは、“マチ針専用”のタイプを作ってみる。

この1つ目は、あくまでも個人的に“マチ針専用”として使うつもり…。

待ち針専用の針山

ただ、ついつい“縫い針”を刺してしまうこともあるとは思う、仮にもしそうしてしまったとしても短い縫い針の場合、針山の中にその針全体が入り込んでしまわないように高さ低めで作っておく。
そして、“饅頭のような形”の針山よりも真横からは刺しにくい構造なので、長い縫い針が横向きで入り込んでしまうということも多少減ると思う。

材料の革と毛糸と布と椿油
■材料

【中わた】
【布】
【レザー(革)】

【椿油】
【白ボンド】 木工用・手芸用など。
【ゴム系ボンド】 コニシボンドG17など。

【中わた】 今回はウール100%の毛糸を使う。念のために“椿油”を含ませておく。
なお、中わたは上記で説明したように色々と使えるものはある。とにかく手に入りやすいものでOK。
【布】 こちらもウール100%で…。
中わたをウールにするので合わせておいた。
今回は、何かを作った際に出たハギレを使います。
ちなみに、針の表面に輪っかの錆が出来ると嫌なので、ここにも“椿油”を微妙に含ませておく。
但しそれは完成したあとです。理由は先に含ませておくとボンドが付きにくくなるので…。
【レザー(革)】 クッションの様なふっくらとした形にしたいので厚過ぎや硬過ぎは使わない。とは言え薄過ぎも避けたい…。とにかく程よい厚さでそこそこ柔らかめのタイプ。
今回は厚さ1.7㎜の牛革を使用。

■作り方


革と布の裁断する寸法

.レザーと布を裁断する。

●レザーは2枚裁断。縦横8cmの正方形で。
その内の1枚は中心に4.5cm角の穴を開けておく。
●布は1枚裁断。縦横6.5cmの正方形で。

※完成時にレザーの端をきれいに揃えておきたい場合は、レザーを少し大きめに裁断しておいて、張り合わせたあとに大きくした分をカットすればよい。

ちなみに、レザーの中心に開ける4.5cm角穴の四隅をイラストのようにアール(曲線)にする場合は、まず四隅にあたる場所にポンチで丸穴を開けて、その丸穴をつなげるように刃物でカットすると穴の四隅がイラストのようにアールになる。
今回は径5㎜の穴あけポンチを使った。

白ボンドの塗り方

.穴を開けたレザーに白ボンドで布を貼り付ける。

「“レザーの中心”と“布の中心”を合わせた状態にすると重なる部分」に白ボンドを塗ってお互いを貼り合わせる。

※なお次の作業にすすむのは、必ずこの白ボンドが乾いたあとに。

ボンドを縫った様子

.レザー内側の端部分に、ゴム系ボンドを塗る。

上記工程の白ボンドが乾いたら、レザーの内側(2枚とも)に、わたの挿入口だけを残してゴム系ボンドを塗ります。(下イラストの通り、ボンドは赤い部分)
ボンドの幅は2mm(0.2cm)くらいで、レザーの端ギリギリに塗る。
※レザーを大きめに裁断してある場合、ボンドの幅はその分だけ広くしておく。
ゴム系ボンドの塗り方
なお、ボンドはヘラを使って薄く塗ります。

塗ったあとは、ボンドが手に付かなくなるまで5~10分ほど乾します。

ここでゴム系ボンドを使用する理由は…
もし白ボンドを塗ったとしたら、貼り付けて圧力をかけた時にボンドがにじんで広がってしまい接着される幅が広くなってしまうため。
そうなると中が狭くなるので困る…。
また、今回はミシンで縫うので広がると面倒…。

ローラーで押さえているところ

.ボンドが手に付かなくなったら、2枚のレザーを揃えて張り合わせる。

わたの挿入口の向きを同じにしてレザーを張り合わせたら強く押さえて密着させます。
ローラーで押さえるか、もしくはゴム槌などて叩くなどするといい。
両方ともない場合は、押さえる場所に紙などを置いて、その上から指で擦るようにしながらしっかりと圧力をかけて押さえる。

※張り合わせる向きには注意。向きを間違えるとわたの挿入口が無くなってしまう。

毛糸を加工したわたと椿油

.毛糸を加工する。

長い毛糸をそのまま丸めて詰め込んでも良いとは思うが、とりあえず加工しておいた。
そして加工後は、わた全体に“椿油”を含ませておいた。なおここは“シリコンオイル”でも良い。

試した加工方法は以下の2つ…。
●長さ5~6㎝ほどにカットし、さらに手でほぐして画像のような“わた状”にする…。
●長さ3㎝ほどにただカットしておくだけ…。

結論として、前者の手でほぐす方法はかなり大変。これだったら最初からわたを買った方が絶対に楽。
今回は作ってしまったのでこの針山にはとうぜん使用するが、下記にて作った2つ目の針山には後者の長さ3㎝ほどにカットしたものを使う。
毛糸を3cmにカットしているところ
この画像のように束ねてカットすると作業は早い。

わたを詰め込んだ様子

.中にわたを詰め込む。

ボンドが完全に乾いたら、わたの挿入口(ボンドを塗らなかった部分)からわたを詰め込む。
中に詰めるわたの量は求めている針山の高さや硬さ次第。ここはお好みで…。

※レザーを大きめに裁断してある場合は、わたを詰める前に大きくした分(端部分)をカットしておく。

ミシンで縫う場所のイラスト

.周囲を縫います。

端から3mm(0.3cm)くらいのところで全周を縫って、最後に糸の始末をしたら完成です。
ちなみに、手縫いする方法とミシンで縫う方法がありますが、ここではミシン(工業用腕ミシン)で縫います。
手縫いする場合は、下記の“縫い針専用の針山”の説明を参照。

糸の始末の方法は…
●縫い始めと縫い終わりの余計な糸を少しだけ残してカットし、その糸の先をライターの火などで炙って溶かし止めておく。
●もしくは、縫い始めと縫い終わりの縫い目の糸を少しだけ緩め、その糸の根元に白ボンドを塗る。そしてその白ボンドが針穴に入り込むように糸を先から引っ張る。そのあと飛び出た余計な糸をギリギリでカットし、その頭に白ボンドを縫って押さえる。

今回は、ポリエステルのミシン糸を使ったので前者のライターの火で溶かす方法で止めておきました。天然素材の糸を使った場合は後者で…。

完成してマチ針が刺してある様

完成したら薄いクッションのような形状となるので、短い縫い針をついうっかりと刺してしまったとしても、中に入り込んでしまうことは減るはず。
さらには、真横からは刺しにくい構造なので“針が横向き”で中に入り込んでしまうということも減るとおもう。
まあイレギュラーな刺し方をしてしまう場合もあると思うので絶対ではないが…。


■次に、“縫い針専用の針山”も作っておく。

この2つ目は“縫い針専用”として使うつもり…。
下の画像の通り、この穴に針を刺して下さいという構造です。このようにしてあったらとにかく穴に狙いを定めて針をゆっくりと刺すことに意識を集中するので針が垂直になりやすい。
ということで、意図的にめちゃ斜めから針を刺したり頑固に革の部分に刺したりしない限り、中に入り込んで針が行方不明になってしまうということはあまりないと思う…。高さも低いですし…。
まあ、慎重に刺せばの場合ですが…。

縫い針専用の針山

基本的な作り方は上記で作った1つ目のタイプとほぼ同じ。違うのは上記のような布は使わないこと。
材料は【中わた】と【レザー(革)】だけ、そして、道具に“穴あけポンチ”が必要なことです。
※ただしミシン縫いでの場合です。手縫いする場合は“菱目打ち”なども必要。そして作る工程の順番が1箇所変わる。下記にて説明。

■作り方


ポンチで穴を開けている様子

上記で作った“1つ目のタイプ”では、2枚の四角いレザー(1枚は中心部が布)を縫い合わせてクッションのような形状にしてありますが、それはここでも同じです。

ただしここでは、上記のように「レザーに四角い穴を開けてそこに布を張る」ということはせずに、その布にあたる部分を「穴あけポンチで丸穴を開けただけ」にしている。

今回は画像のように径2㎜の“穴あけポンチ”で9箇所の丸穴を開けました…。細い針の場合だと1つの穴に2本刺せるとして18本ほどの針が刺せます。
なお、ポンチで穴を開ける場所はお好みで…。そして穴を開ける数もお好みで…。

●ミシンで縫う場合は、ここまでが上記と異なるところです。あとは上記と同じように作る。

●手縫いする場合は、以下にて説明。

周囲を手縫いした様子

ここからは手縫いで作る方法です。

上記での工程5のあと、“菱目打ち”で縫い糸を通す穴を開けておきます。

そしてこの場合、中わたを入れる順番が、上記の“ミシンで縫う場合”と多少異なります。
上記では「端を縫う前」にわたを入れていますが、
ここでは「わたを入れる前」に“わたの挿入口以外の3辺”をまず“コの字状”に縫っておきます。

※画像の糸は、エスコード/麻手縫い糸(中細/20番手)生成です。

中に毛糸を詰め込んだ様子

そして、わたを詰め込んでから残りの1辺を縫ってわたの挿入口を閉じます。

以上で完成。

レザーの硬さによっては、縫い終えた直後の形はちょっといびつになっている場合もありますが、手で四つ角を整えてやるとクッションらしいキレイな形状になります。


以上のように、2種類の針山(ピンクッション)を手作りしてみました…。

針山は、マチ針などを刺しておくためのもので、針刺し・ピンクッション・針立てとも呼ばれている。
洋裁をしている方なら間違いなくお世話になる裁縫道具ではないでしょうか…。

今回は自分で使うために作りましたが、洋裁されている方へのプレゼントとしてもいいかも…。


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