以前何かで見たことのある自家製の発酵バター。
ずっと興味があったので作ってみようかと思うが、あいにく、乳酸菌の発酵に最適であるヨーグルトメーカーのような器具は持っていない。
ということで、ヨーグルトメーカー(発酵器)の代わりとして、以前の甘酒作りの時ように今回も炊飯器(ジャー)を使ってみようかと思う。

ただ、我が家の炊飯器は保温温度が70℃程(蓋を開けっ放しだと60℃程になる)に初期設定されていようで、ヨーグルトや発酵バターを作る際の温度よりも全然高いため、甘酒を作った時と同じ方法を採用するのはちょっと厳しい。
そこで、色々な道具と炊飯器を組み合わせ、それらの発酵に最適な温度環境を作ることが出来ないか試してみることにした。

なお、色々な温度環境を作ることが出来れば、専用の発酵器が無くてもヨーグルトや発酵バターなどが作れると思うし、さらにはパン生地の発酵用などとしても使えるかもしれない。
以前に炊飯器内を60℃に保って甘酒を作ったことがあるが、それに加えてさらに30~50℃までの温度環境までも作ることが出来れば、それはもう「発酵器」と言ってもいいくらいなのだが、はたして…。

※以前の甘酒造りのページは↓
ガラスのボトルで湯煎をして「米麹甘酒」を作る


■まず、通常運転の温度を計測。

炊飯器の中に温度計

まずは炊飯器本来のスペックを再認識しておくために、内釜の底に温度計を置き、完全にフタを閉めた状態て釜の中の温度を測定します。

結果としては、約1時間くらい放置しておくと炊飯器の中は軽く70℃をオーバー。
そのあとしばらくフタを開けておいたけど、それでも55~60℃くらいまでしか下がらず。
やはり、目指す温度よりも高い…。

今回は、このフタを開けた状態での55~60℃よりも低い温度環境を作り出することが出来ないか工夫してみるとする。

ちなみに、ここで目指すそれぞれの発酵温度は…。
●ヨーグルトや発酵バターでは【40~45℃程】
●パン生地の一次発酵では【30〜35℃程】
なお、米麹甘酒造りでの【60℃程】は以前すでに実証済なので、すべて可能ならばほぼ発酵器である。


■熱の伝わり方は3つある。

熱の伝わり方には【伝導】【放射(輻射)】【対流】の3つがあって、
【伝導】は、物体を介して熱が伝わる現象のこと。身近なもので例えると、冷やすものでは保冷まくら、温めるものではカイロや電気あんかなどもそれを応用している。
【放射(輻射)】は、物体を介さず赤外線によって熱が伝わる現象のこと。太陽の熱やパネルヒーターなどが温かいと感じるのはこの現象のおかげ。逆に氷柱の横にいるとひんやりと涼しく感じるのもこのため。熱は高いほう(体)から低いほう(氷柱)に移動するので。
【対流】は、気体や液体の流動によって熱が伝わる現象のこと。例えば、エアコンから冷たい空気や温かい空気を送り出して室内の温度調節をしたり、風呂に熱いお湯や冷たい水を混ぜて温度を温度調節をしたりするのはこの現象を利用している。
なお炊飯器のお米を保温する機能は、主に内釜からの熱伝導で、あとは蓋を閉めて密閉することによる内釜から発する熱の対流、ご飯の上部では内釜や蓋からの輻射熱の影響もある。


■熱伝導で伝わる熱を断って温度を下げてみる。

今回使用する炊飯器の釜底に直接温度計を置くと、ヒーターの熱が伝導するのと輻射熱との影響で、蓋を開けた状態でも温度計の温度は50~60℃くらいになった。なのでその温度計(延いては発酵させるもの)が40~45℃まで下がるように、とりあえず釜底部分と温度計の間に断熱材でも置こうかと…。
そこで熱伝導率の低いものは何かと考えたが、日常的に手に入る物だとほぼ熱は伝わる。ということで、ここは物体ではなくほぼ熱伝導のしない空気を間に挟むことにした。挟むと言っても対象物をただ浮かせるだけですが…。
そうすると、釜底からの「熱伝導」はゼロに近くなってその分の温度は下がるけど、釜の内側からの「輻射熱」や温められた空気の「対流」によってある程度の温度は保たれるので、それで保温することになる。

ザルやケーキクーラーなど

とりあえあず、温度計(延いては発酵させるもの)を釜底から浮かせることが出来るような道具をいくつか見繕ってみる。
そして、それぞれの道具と炊飯器とを組み合わせてその上に温度計を載せ、それぞれのパターンの温度データーをとってみることにした。

なお、結果から先に言うと、予想通り釜底からの距離によって温度環境は違いました。
あくまでも発酵器の代用なので1℃単位での温度調整というわけにはいきませんが、何度から何度の間で大丈夫というレベルであれば色々な温度帯の発酵に使えそう…。
以下がその結果の一部です。


■まずはステンレスのザルを使うパターン。

実験するために用意した道具

■用意した道具

まず最初に試してみた道具は、前後の2カ所に持ち手とフックの付いたステンレス製の「ザル」。
この中に「温度計」と「発酵させるものを想定した水の入ったガラス容器」を入れて保温してみます。
途中からは、表面にエンボス加工のある(沢山の凸部が設けられた)「シリコンラップ」も使いました。
ちなみに、ガラス容器の中の水の量は230㏄です。

耐熱のタイプの温度計

なお、内釜の中に入れる前の温度計は25℃程を表示している。つまりこの日の室内温度です。
※画像では斜めからなので24℃程に見えますが、正面から見ると25℃程です。

ちなみに、今回使用した温度計はオーブン内で使用する耐熱のタイプで下部に脚のある形状のもの。
なのでこれから測る温度は、下の接地面よりも少し上あたりの空間の温度を測っていることになるのでガラス容器の中の温度とは多少の違いはあるかもしれない。でも極端な違いはないと思う。

ザルの中に入れて保温中の水入りガラス容器

■実験

内釜上部の縁にザルの持ち手とフックが引っ掛かるようにして釜の内側に「ザル」を設置します。
そして「温度計」と「水の入ったガラス容器」をその「ザル」の中に入れて保温をスタート。
今回は全体で8時間試してみました。

その結果としては…
最初はゆっくりと温度が上がり、1時間くらいかけて40℃程になりました。3時間くらい経つと45℃程となり、しばらくすると47℃程に…。
これだと目指す温度よりも高い。ということで釜底に遮熱カバー(下記で説明)をすることにした…。
しばらくすると温度は下がり、そのあとの5時間はおおむね43℃前後でした。
但し、炊飯器のサーモスタットの影響で温度は多少上下していたと思うので、ずっと一定の温度をキープという訳ではありません。

結論としては、ヨーグルトの乳酸菌を発酵させる適温は40~45℃なので、このザルを用いたパターンでヨーグルトや発酵バターを作るのはなんとか大丈夫かな…。※あくまでもこれは、我が家の炊飯器とザルを使用しての結果です。
また今回は、230㏄の水の横に温度計が置いてありますが、その量が多くなったり少なくなったりするとまた違う結果になるかもしれません。

ちなみに、適温の範囲から上下に多少はみ出たからと言って、菌がすぐにダメになるという訳でもないとは思う…。まあ、用いる菌によっては絶対厳守という場合もあるかもしれないが…。

釜とザルの関係を示すイラスト

なお、内釜の中の様子はイラストのような感じで、釜底とザル裏の間には高さ3cm程のスペースが出来ていているため、釜底の熱がザル内に置いたものに「熱伝導」しないようになっています。
ですが、釜の内側の面全体(立上り部分や底面など)から発する「輻射熱」と、内釜で温められた空気の「対流」によってある程度の温度は保たれるという設定です。

※あくまでも今回の結果は、釜底とザル裏との間が高さ3cm程のスペースになる場合でのことです。
ザルの形状が浅かったり深かったりするとまた違った結果になるはずです。

断熱した時の側面図

温度を下げたい場合。

輻射熱を弱くすると温度が下がるかと思い、釜の内側の一部に「遮熱カバー」をしてみることに…。
なおこのカバーにはある程度の耐熱が必要なので、今回はシリコンラップを使用する。
カバーの方法はシリコンラップを釜底に置くだけ。
置いた枚数は2枚。それらは重ねて置いてある…。

結果的には、4℃程は下がった。もちろんシリコンラップの面積、重ねる枚数によって多少結果は変わってくるかもしれない。
ちなみに、今回使用したシリコンラップは、片側の表面にエンボス加工がされている(沢山の凸部がある)タイプで、その面を下にして置きました。
凸部がある面を下にすると、釜底とシリコンラップの間に空気(断熱)の層が出来るので…。
なお、シリコンラップ自体も熱伝導でそこそこ熱くはなります。なので遮熱カバーと言えども輻射熱を発することにはなります。

木を挟んでザルの位置を上げたところ

また、ザルの取っ手の下に、そこらへんにあった適当な木を挟んでザルの位置を少し上げてみた。
底部からは離れるし、上に上がるほど低い温度の外気により多く触れることになるので、温度計の温度は下がるかも…。

結果としては、上げた距離が少なすぎたせいもあってあまり効果はなし。それでも1℃くらいは下がったような…。ただ、偶然に炊飯器のサーモスタットが働いた時だったのかもしれない…。
でも、目指す温度をギリギリオーバーしていて、それをちょっとだけ下げたいという時には、もう少し木を厚くして試してみるのもいいかもしれない。

パンチングボウルでカバーしたところ

温度を上げたい場合。

ちなみに、上部にカバーをして熱を逃がさないパターンも試してみた。
さすがに普通のボウルだと熱がたまってすごく高温になりそうなので、ある程度熱の逃げるような穴の開いたパンチングボウルでカバーをしてみた。

結果としては、今回使用したパンチングボウルだと5~6℃上昇。今回の目的である発酵バターやヨーグルト作りの適温はオーバーしている。
ただ、まわりの室温が低い時などには有効かもしれない。分りませんが…。
もちろん、これくらいの温度を上げたいという時にはもってこいだと思う。
なお、このパンチングボウルでカバーをした場合でも時々の温度測定はマスト。


■ザル以外では…。

石鹸置きなどの道具たち

■用意した道具

ザル以外に試してみた道具は、ステンレスの石鹸置きです。
上記のザルのパターンでは、ザル裏と釜底の間には3cmほどのスペースが出来ていましたが、この石鹸置きの場合は高さが1cm強ほどしかありません。

石鹸置きの上に載せてガラス容器を保温中

まず結果としては、ザルの時よりも釜底にすごく近かったせいか4℃程高かった。
何かには使える温度かもしれませんが、今回の目的にはちょっとだけ高かった。
でも、真冬に暖房の無い状況だと使えるのかな…?
まあ、そのテストはしていないので絶対とは言えませんが…。

なお、脚がもっと長くて台の位置がもっと高ければ違った結果になったと思う。
また、このパターンのテストは3時間くらいでやめました。なので8時間くらいやったらどうなるかのデーターはありません。


■棒状の温度計しかない場合は…。

プラスチック容器の中で温度を測定中

上記のような「置き型タイプの温度計」が無い場合は「棒状の温度計」を使うことになるかもしれないけど、それだと温度測定はしにくいかもしれない。
そんな時は画像の様に、適当なプラスチックの容器を用意し、その中に発酵させる対象物の入った容器と一緒に水(ぬるま湯)を入れておく。
このようにして「棒状の温度計」を水(ぬるま湯)の中に挿すと温度測定がしやすくなる。

なおこの方法では、画像のように外側のプラスチック容器の蓋を開けたままだと、周りの水(ぬるま湯)が少しずつ蒸発する可能性があります。なので、計測時以外は蓋を載せておく。もしくは温度計を挿したままにしておきたい場合は、温度計の頭を出した状態で容器上部にラップを被せておくといい。


■パン生地の発酵用としては…?

ちなみに、上記ではヨーグルトや発酵バターを作るのに適した温度環境を炊飯器でも作り出せるかという実験でしたが、さらに低い温度環境であるパンの一次発酵にも使えないかと考えた。
温かい時期だと常温でも普通に発酵してくれるのでまったく必要はないかもしれないが、寒い時期だと暖房を入れた室内でもあともう少しは温度を上げたいという時もあるので…。
作るパンの種類によっても違ってくるとは思うが、とりあえず30〜35℃くらいを目指したい。

ケーキクーラーの上に温度計

使用する道具はケーキクーラー。
設置方法は炊飯器の釜の上にだだ置くだけ。
ただし、滑ってずり落ちないようにケーキクーラーの脚部分2カ所を釜の内側に入れ、それをストッパーの代わりにして固定してある。これはとても大事なポイントです。

この方法の場合は、釜の内側からの距離はあるし低い室温にもさらされるため、上記のパターンよりも低い温度での保温が期待出来そう…。
※なお実験した場所の室温は25℃です。

まずは、画像のようにケーキクーラーの上に温度計を置いてその辺りの温度を測ってみた。
結果としては、2時間ほど置いて36℃程。3時間置いたら34℃に下がっていたのでピークは36℃。
目指している温度をちょっとだけオーバーした時間帯があって思ったよりも高かった…。
でも、40℃で一次発酵させるというレシピもあるくらいなので34~36℃はギリギリOKなレベルか…。

保温中のステンレスボウル

とりあえず、ステンレスボウルの中にパン生地代わりの水を3センチほど入れ、蓋をした状態でしばらく保温させてみた。
そして、1時間過ぎた頃に水の温度を確認してみたところ34℃程。2時間で40℃程と少し高めに…。3時間で42℃程とより高めに…。さらに進めて5時間経った時点では45℃程に…。そのあとは微妙に下がったのでピークは45℃程。
これではパンの一時発酵には高いような気がする。温度計だけを置いた場合では3時間経っても最高で36℃程だったのに…。

ボウルは温度計よりも面積が広いので、輻射熱や下から対流してくる熱を広い面積で沢山受けてしまったのか。もしくはボウルが蓋のようになって熱を溜めてしまっているのか。そのほかにも理由があるのか、とにかく高くなってしまった。

※ちなみに、使用したボウルが金属製だったから温度が上昇したのかと思い、のちにプラスチック製のボウルでも試してみたけど、おおむね似たような結果になりました。

ステンレスボウルの下にタオルと布巾

ということで翌日にあらためて、熱源を少しだけ遮って、水を入れる最初のところからやり直してみることにした。

まずは、左側画像のように、ボウルの下に小さく折り畳んだ綿の布巾を置いてみる。
その結果、5時間後に水の温度を確認してみたところ41℃。それでも高い…。
さらにまたやり直して、次は右側画像のように、綿の布巾をもっと厚い綿のタオル地に変更し、その面積もより広くしてみることに。
その結果、5時間後で35℃程でした。
どうやら、断熱材の厚さや熱を遮る面積によって温度調節が出来る感じである。これだとやり方次第ではなんとかなりそう…。

ちなみに、綿の熱伝導率は0.03W/m·Kとかなり低いし、タオル地にいたっては空気も含まれるため断熱材としは丁度良かったのかもしれない。

ということで、寒い時期にパン生地を一次発酵させる時には、この方法でいこうかと思う。
なお、上記の結果は室温が25℃の場所で実験した時のものです。特にこのパターンはボウルが剥き出しになっているので室温による影響は大きいはず。
なので、真冬の暖房のない場所だったらどういう結果だったのかは分かりません。
その場合、ボウルがステンレス製かプラスチック製かによってもどうなるか…。
ちなみに、暑い時期には使う必要はないかと…。

■おそらくヨーグルトも…。

なお、ボウルの下にタオルを置かないバージョンでの実験では、ボウルの中の水が45℃だった。つまり乳酸菌の発酵には適温である。
というとは、釜の上にケーキクーラーを置くこのパターンでもヨーグルトは作れるかもしれない。
その方法は、まず上記での実験と同じセッティングにする。
そして、水(45℃のぬるま湯)の入ったボウルの中に、湯煎のような状態にしてヨーグルトの材料が入った容器を入れておく。そしてボウルに蓋をして数時間発酵させる。


■今回の第一目的である乳酸菌の発酵を実践…。

とりあえず、我が家の炊飯器とザルを使った方法ではそこそこイケそうな感じがしたので実践してみる。
ただ、いきなり発酵バター(材料が高脂肪の生クリーム)で失敗したらもったいないので、まずは牛乳を使ってヨーグルトを作ってみることにした。

容器に注ぐ牛乳

今回は、あとで作ろうと思っている発酵バターと同じ量で試してみる。まずは牛乳200㏄。

※ここで使用する容器やスプーンなどの道具はすべて、前もって殺菌してあります。

牛乳に混ぜるヨーグルト

その牛乳に、プレーンヨーグルト20㏄を入れてよくかき混ぜる。

ヨーグルトの入った牛乳を発酵中

炊飯器にセットしたカゴの中(もう発酵器と呼ぼう)に容器と温度計を設置して発酵開始。
今回は8時間発酵させます。

なお、必ず時々は温度計をチェックする。

スプーンですくうヨーグルト

8時間経ったら発酵器から取り出して常温まで冷まし、そのあと蓋をしたまま冷蔵庫で保存。

画像は翌々日です。
ちゃんと美味しいヨーグルトが出来ていました。
おそらく発酵バターも作れると思う。


以上のように、炊飯器(ジャー)は発酵器の代わりとして使えるのかを試してみました。

ちなみに、試したことはないけど、乳酸菌の発酵は常温でも普通に出来てしまうらしい。
ただ、常温だと丸1~2日くらいはかかるらしいので発酵器を使うのは時間の節約にはなると思う。
今回の炊飯器を使った場合でも電気代はたいしてかからないし…。
我が家の炊飯器での電気代は、保温モードで6~8時間くらいの使用の場合、現在契約している電気代だったら4~5円程度なので、時間を最優先したいときの選択肢としてはあり。

なお今回の実験結果は、あくまでも我が家の炊飯器や道具を使用したものです。
炊飯器の保温におけるデフォルトの設定温度、内釜の大きさ・深さ・材質、その他使用する道具のサイズ形状、そして発酵させる対象物の量などによっては出来る場合と出来ない場合があると思います。
また発酵を行う場所の室温によっても結果は全然違ってくるはず。
とにかく、実践する前の実験はマストです。
なお参考までに、今回試した炊飯器の内釜は熱伝導率の高い銅製で、実験を行った際の室温はおおむね25℃弱でした。


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